『release』～流れ星の使命～

　こんな景色はもう少し先♪
　

　　　『リリース（release）』～流れ星の使命～
　

「さぁ、いいかい。先生が合図をしたら、みんな手を放すんだよ。そ～れ！」

赤、青、緑、黄色、ピンク、白。
春まだ浅い水色の空に、小学校の校庭から、いっせいに風船が飛び立ちました。
その糸の先に、卒業生の数だけ夢を結びつけて・・・。

＊

遠く離れた海の沖合に、宇宙を旅してきた小さな星がひとつ、ポチャンと落ちました。
流れ星は使命として、一つだけ夢を叶えることができます。
たいていの星は落ちてしまう前に、
誰かが見つけて大急ぎで願い事をするものなのですが、
その星が落ちてきたのは昼間だったので、誰にも気づかれることがなく、
彼は使命を果たせないままに、ゆらゆらと深い海に沈んでいきました。
けれども彼は、一人きりだったわけではありません。
海面にぶつかる前に何かが彼のからだに引っかかり、
それが海の底に辿り着くまで、彼から離れなかったからです。

「ねぇ、君。いいかげんに僕から離れてよ。
僕は願い事をされなかった流れ星なんだ。
だから、今は自分のためにその力を使えるんだよ。
僕は魚になって、この海を自由に泳ぎ回ろうと思っているのに、
君がいたらそれができないじゃないか」

「ごめんなさいね、流れ星さん。
私だって、あなたから離れて、どこか人間のいるところに行きたいのよ。
私の使命は、私を書いてくれた女の子の夢を誰かに届けることなの。
だけど、私を運んでいた赤い風船さんが、
できるだけ遠くへ飛んで行こうと張り切って、空の高いところまで上がっていって、
あなたとぶつかってしまったんだもの」

「やぁ、君は『手紙』というものだね。
そうだったのかぁ。僕が君の風船を破裂させてしまったんだね。
それなら僕にも責任があるなぁ。
でも、僕はせっかく自由を手に入れたところだから、それを手放すのは惜しいよ。
少し考えさせてくれないか」

「わかったわ。待つわ。でも私、あなたが私の願いを聞いてくれるってきっと信じてるわ」

そこで、流れ星はしばらく考えました。
けれども、流れ星が“しばらく”と思った時間は、この世界ではとても永い時間でした。
そういうわけで、ようやく彼が結論を出したときには、十年以上の時が経っていたのです。

流れ星は言いました。

「お手紙さん。僕は、君と僕の両方の願いを叶える、とても良い解決策を思いついたよ！
僕は君を付けたまま魚になって、海の浅いところを泳ぎまくる。
すると、人間が僕を釣り上げるだろう。
その人間は君のことを見たら、必ず手に取って読んでくれる。ほら、一石二鳥だろう？」

十年の間、ただひたすら答えを待っていた手紙は、それを聞いて大喜び！　
・・・のはずなのに、彼女は心配そうにこう言いました。

「流れ星さん。それでいいの？　
私、十年もあなたと一緒に過ごしてきて、なんだか離れがたくなっちゃった。
それに、あなたは人間に釣り上げられたら、食べられてしまうのよ？　
それって、とっても悲しいなぁ」

「あはは。何を心配してるんだい、お手紙さん。
僕が、願いを叶える星だってことを忘れてないかい？　
それって、幸運をつかさどる星ってことなんだよ」

流れ星はそう言って、暗い海の底でピカピカッと明るい光を放って見せました。

＊

とある町の港の沖に、大きな客船が浮かんでいました。
日本を一周するという企画の船旅に参加していた人達は、
港に降りてそれぞれの目的地へ散っていき、
船でのんびりしたいという人達だけがそこに残っていました。

そんな、人影の少ない船の甲板から、若い男性がひとり、海に釣り糸を垂らしていました。
彼のとなりには同じくらいの年齢の女性が寄り添って座り、一緒に竿の先をみつめています。
その竿が、ぐぃっと大きくしなりました。

「あ、きた！」

二人同時に叫ぶと、男性は素早く竿を引き、糸を巻き上げました。
すると、なんとも不思議なものが上がってきたではありませんか。
針に食いついていたのは、平べったい大きなカレイで、
そのからだには、何やら四角い紙がピッタリと張り付いています。
結びつけられた糸には、風船がちぎれたような赤いゴムの切れ端がからんでいました。

カレイをぶら下げたまま目を丸くしている男性。
その紙をはがして手に取った女性が、「あ！」と声を上げました。

「これ、私が書いた手紙だわ！」

「え？」

「私ね、小学校の卒業式の日に、みんなと一緒に風船を飛ばしたの。
将来の夢を書いたお手紙を付けて。その夢が叶いますようにって願いを込めて」

「ええ！　だって、それだともう十年以上も前の・・・」

「うん、でも、そうなんだもん。ほら、これ、私の字。ここに私の名前も書いてある」

広げられた紙きれにはマジックペンで書かれた黒い文字が連なり、
最後の方に、確かにその女性の名前が記されていました。

「わぁ、すごいじゃない！　よく今まで破れずに残っていたね～！　
で、なんて書いたの？　夢は叶ったの？」

それを聞くと、若い女性はさっと男性の目から手紙を隠してしまいました。

「あれ、読ませてくれないの？」

「うふふ。願いごとはね、多分、叶ったわ。
だから、これは私が大事に大事にしまっておくの。ご苦労様でした、ありがとうって」

「そうかぁ！　良かったね。
じゃぁ、大事な手紙を届けてくれたこのカレイも、ご苦労様、ありがとう、って、
海に帰してやらなくちゃいけないね」

若い男性はカレイの口から針を外し、

「サンキュ～！」

そう言って、ぽーんと海に放り投げました。
　
使命から解放された流れ星、いえ、平たい大きなカレイは、
綺麗な放物線を描いてポチャンと海に落ち、そのまま自由な世界へ旅立っていきました。
　

（おわり）
　
　
＊＊＊
　

先週末に報道された、
”カレイが１５年前の手紙を届けた”という驚くべきニュースをベースに、
あとは私の完全なる想像で書き上げたお話です。

しかし・・・作り話を越えるようなメルヘンチックな出来事って、本当にあるんですね！！
あ～もうびっくり！
関係者の皆さま、脳への良い刺激をありがとうございました＾＾/

タグ：海 星 風船 手紙 乗り物 魚

コメント 26

いいんじゃない？
感動しちゃった。
これそのまんま絵本とかになりそうですネ。
by nico (2008-01-27 17:51) 

最近バタバタしていてご訪問が遅れてます。ごめんなさい。
このお話、実話のほうもとってもびっくりな話だけど、lindaさんの書かれたお話もファンタジーだなあ！食べられずに済んでよかった！
by 笙野みかげ (2008-01-27 18:30) 

カレイの話が先でしたか♪あのニュースをイメージしながら読ませていただきました。
by salty (2008-01-27 18:43) 

先日のニュースに、嬉しい驚きでした。
あの彼女の願いも叶ったのかな？
by (2008-01-27 21:41) 

現実のほうのカレイはどうなったんでしょうか。
ただのご昇天だったのか、
誰かが食べたのか・・・・・、
あっ、ゴメンなさい。
気分、こわしちゃったかな。
by スー (2008-01-28 01:15) 

nicoさん、ありがとうございます。
わ～い☆絵を付けてくださいますか～？＾＾♪

みかげさん、ありがとうございます。
ファンタジー要素たっぷりの実話だったんだすもの♪＾＾

soltyさん、ありがとうございます。
このお話が先だったら更に更に仰天（＠＠!!です＾＾；

メロンマンさん、nice!　をありがとうございます＾＾

西尾征紀さん、nice!　をありがとうございます＾＾

吟遊詩人さん、nice!　をありがとうございます＾＾

おぺさん、ありがとうございます。
笑顔の素敵なお嬢さんでしたね＾＾　叶っていて欲しいです♪

WIZARDさん、nice!　をありがとうございます＾＾

スーさん、ありがとうございます。
いえ、めげません！（笑）
by linda (2008-01-28 08:57) 

そのニュース、、、知りませんでした(-_-;)
ちなみに、家族(コロン様含む)全員知ってました(>_<)
by 吟遊詩人４１ (2008-01-28 09:29) 

流れ星さんのお話　凄くファンタジーックで楽しいです
夢は夢としてでも　何時でも心の片隅に置いて置きたいです。
叶わぬ夢かも知れないけれど　いつか叶う時が来ると信じて・・
焦らないで　ゆっくり～ゆったり～とねｖｖ
by まつみママ (2008-01-28 11:23) 

私もこのニュース見ました＾＾

けど、カレイの寿命はそんなに長くないので、どこかで想像以上のワクワクドキドキを経験していたのかな～

紙切れが１０年以上も海で破けなかったってことは、最初は海の旅じゃなくて空の旅を続けていて最後の使者になったのがカレイ君だったのかも。。。

一度、宇宙まで行ってるのかもね！！
by HAL (2008-01-28 11:49) 

このニュース、小生も知りませんでした。凄いですねぇ～。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものです。
by (2008-01-28 16:54) 

すてき！すてき！
すごく素敵なお話ですね。

ニュース知らなかったです～。
ネットで調べてみようかな？
by おっくー (2008-01-29 00:40) 

吟遊詩人さん、ありがとうございます。
おお、コロン様まで！　素晴らしいですね！！＾＾

まつみママさん、ありがとうございます。
いつか叶うと信じていたら、十年もあっと言う間かも知れませんね＾＾♪

HALさん、ありがとうございます。
そうですね、宇宙空間にほんのしばらく・・・？＾＾
非常に想像力を刺激されるニュースでした☆

たねさん、nice!　をありがとうございます＾＾

atsushiさん、ありがとうございます。
実際には、どんな奇想天外なことがあったんでしょうね♪＾＾

おっくーさん、ありがとうございます。
すぐに検索できますよ～♪
でも、科学的に究明していてちょっと興ざめしちゃうかも＾＾；

風さん、nice!　をありがとうございます＾＾
by linda (2008-01-29 09:57) 

今日は～！ただいま～♪
本当にいいお話ですね。15年前の手紙のことも夢を皆さんに伝えてくれましたね。
by お散歩爺 (2008-01-29 12:07) 

途中まで読んでふと先日テレビで見たニュースを思い出しました。
可愛かったなあの子?いえいえいえ
パクリじゃんこれって、て言うぐらい
リアルでした。又読ませてくださいね。
by PopLife (2008-01-29 15:12) 

旅爺さん、おかえりなさい！
さっそく読みに来てくださってありがとうございます。
旅爺さんも時間を超えていらしたんですよね♪＾＾ｖ

EF135Lさん、ありがとうございます。
流れ星のように飛び込んできた明るいニュース☆彡
そこに登場された方々への、これはオマージュです＾＾♪
by linda (2008-01-30 10:13) 

kinngyoさん、nice!　をありがとうございます＾＾
by linda (2008-01-31 16:58) 

カレイのニュースは私も見ました。
現実にあったメルヘンですねー。
願い事って一人一人違ってまたいいね。
叶うとまたいいねｗ
by (2008-01-31 20:53) 

『願い事をされなかった流れ星』というのは、好きかもしれない。
毎日こういう良いニュースばかりならいいのになぁ、と思ってみてました。変な事件が多すぎるから。。。
by (2008-02-01 15:05) 

キャサリンさん、ありがとうございます。
願いたいことがあるっていうのはいいですよね＾＾
叶うことももちろんだけど♪

ゑわさん、ありがとうございます。
ね♪　多分に人間的でしょ？＾＾
良いニュースを探して報道してくれたいいのになぁ～。。
by linda (2008-02-02 10:28) 

大変面白く読ませて頂きました！
by U3 (2008-02-02 14:16) 

カレイにくっついてた手紙のニュース、私もびっくりして読んでいたので、「もしや・・・！」と思いながら読みました。
カレイが運んでくるとは・・・
by asahama (2008-02-02 14:59) 

めちゃめちゃ良かったです!!

私はこの手紙のニュースは知らなかったのですが、ホントだといいなぁ・・・。
by やっちゃん (2008-02-02 16:57) 

U3さん、ありがとうございます。
面白く読んでいただけて大変幸せです＾＾♪

asahamaさん、ありがとうございます。
ヒラメより彼（カレイ）の方が良かったのでしょうね！＾＾ｖ

やっちゃんさん、ありがとうございます。
あのカレイはもう星になっているかな。。
by linda (2008-02-04 08:37) 

(。・_・。)２ｋさん、nice! をありがとうございます＾＾
by linda (2008-02-07 10:22) 

この物語を読んでいる途中に、もしかしたらと思ったら
やっぱりモデルは「カレイが１５年前の手紙を届けた」の
ニュースだったのですね。
あのニュースには私も驚いています。
１５年あれば、赤ちゃんが中学・高校生になりますからね。
lindaさん、流れ星が出てくるお話も素敵でした。
by (2008-02-11 21:45) 

ながつきさん、ありがとうございます。
あ～！そうですね～！！（＠＠
そう考えると、よけい感慨深いですね＾＾♪
by linda (2008-02-13 12:13)