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風のベルリラ [メルヘン]

ゴォ~ ゴォ~。
強い風が、降り積もった雪の上を吹き渡る。
駅から里へと続く夕暮れの一本道を、両手にバッグを提げたひとりの少女が、
マフラーに顔を埋めるようにして歩いていた。

と、その時、どこからともなく、風の音に混じって涼やかな音色が聞こえてきた。

♪コン コン キーン コン コキーン コン コン コキーン・・・・

「何の音? どこから聞こえてくるのかしら」

少女は立ち止まって辺りを見回した。
けれども、出所を突き止めることが出来ない。
そのうちに音は止んでしまい、少女は吹き付ける風に促されるように、また歩き始めた。

と、また

♪コン コン キーン コン コキーン コン コン コキーン・・・

少女はもう一度立ち止まって、じっと耳を澄まし、音のする方を振り仰いだ。
その視線の先にあったもの――

それは、道路脇の家の庭に立つ、高い高い一本のポールだった。
そこに絡みついているワイヤーロープが、烈風に煽られてポールのあちこちにぶつかり、
まるでベルリラのような、高く、澄んだ音を奏でていたのだった。

♪コン コン キーン コン コキーン コン コン コキーン・・・

少女はにっこり笑った。
「まるで風の妖精達が遊んでるみたい。
家に着いたら、妹達にこの話を聞かせてあげよう」

少女はそうつぶやくと、微笑みを顔に残したまま、風に向かって元気に歩き出した。

***

お正月の帰省をテーマに書いてみました。
ベルリラのような音色は、愛犬と散歩しているときに、実際に私が聞いたもの。
雪が降り続く毎日、お話の種を探し当てるのが楽しみのひとつです。


タグ: 帰省
nice!(3)  コメント(6) 
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コメント 6

おはようございます。今回の内容もとても素晴らしいです。物語というのは、映画やドラマと違って、主人公をイメージ出来るところがいいでしすよね!私は、この主人公に幼き日の初恋の女の子を想い浮かべました。物語の内容は、冬なのですが、こころ暖まる思いをしました。また、散歩の途中に色々な音に敏感なのはとてもいいことだと私は思うので・・・私も、自然の音などいつも意識して聴くようにしています。そこから、新しい発見があるときがあると思います。
また、新作楽しみしています。ありがとうございました。
by (2006-01-08 09:01) 

linda

物語の風景がkazeさんの中に広がって、初恋の女の子まで登場してくれたなんて、とても嬉しいです。 心にぽっと灯が点るようなお話にしたかったので、そのことが伝わったことも嬉しい♪ どうもありがとうございます! 先日茶川賞に挑戦したポエムは、残念ながらダメでした。。 気の利いた一言って、むずかしいですね~; また頑張ります!p*^-^*q
by linda (2006-01-08 15:37) 

おっくー

うわぁ~・・・。
かわいいお話ですね~。
ご自分で考えるなんて!!!
すごいですね!
あぁ・・・・なんか 私 表現へたくそでごめんなさい。
by おっくー (2006-01-17 02:49) 

linda

おっくーさん、読みに来てくださってありがとうございます♪
”かわいいお話”って嬉しい~!
今日、これの別バージョンを載せます^^
by linda (2006-01-17 08:09) 

hil

いや、たぶん本当に風の妖精たちが遊んでいるのだと思いますけど。
僕にならちゃんと見えると思います。
すいません・・・。
by hil (2006-05-31 21:34) 

linda

そうですね~!
hilさんには見えるかもしれませんね~♪^^
ということは、もしかして・・・?
by linda (2006-06-01 07:17) 

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