チューリップ・マジック

このお話は、『桜、咲け！　～花咲かキャンディーズ～』 の続編として書きました。
新しい生活を始める方達に、応援の気持ちが届いたら幸せです＾＾

『チューリップ・マジック』

この春、私は大学生になった。
同時に両親の元を離れ、大学の近くのアパートでひとり暮らしを始めた。
開放感と緊張感と、そして少しだけのホームシック。

そんな複雑な思いを抱えていた四月のある日。
講義の合間の空き時間を利用して、私は、ぶらぶらとキャンパスを散歩していた。

降り注ぐ柔らかな陽射し。
歩道の脇では、色とりどりのチューリップの花が、緑色の大きな葉の間から首を一杯に伸ばし、
ゆらゆらとやさしげに揺れていた。

赤、白、黄色、赤、白、黄色、赤・・・？

私はふと見慣れない色を見つけて、赤いチューリップの根元に屈み込んだ。


――水色のドレスを着た、人形のように小さな女の子がそこにいた。

私は、辺りを見回した。他に人影はない。
そのことを確かめてから、私はそぉっと小さな声で、その女の子に話しかけてみた。

「ねぇ、あなたはもしかして、チューリップの精？」

ところがその女の子は、泣きながら私に訴えた。

「いやなの。いやなの。ぜったいイヤなの。
だって、もぐらさんなんかのお嫁さんになったら、
ずぅっと暗い穴のなかで暮らさなくっちゃいけないのよ。
私はお日様が大好きなのに。
私はたくさんのお友達と一緒にいたいのに。
助けてくれた野ねずみのおばさんには感謝しているけれど、
気の進まないお話に、ハイ、なんて言えない。
だから、ドレスを試着するふりをして、こっそり逃げ出してきたの」

――え？　もしかしたらこの子は、あのお話の・・・。

私は続けて聞いてみた。

「それじゃあ、今あなたが着ているのはウェディングドレス？」
「そうよ。だけどあんまり泣いたので、真っ白だったドレスが涙色に変わってしまったわ」

――可哀相に・・・そんなになるまで泣いていたなんて。

私はなんとかして、この小さなお姫様に元気になってほしいと思った。

「ねぇ、小さなお姫様。
私は幼い頃に、あなたみたいなお姫様のお話を読んでもらったことがあるの。
それによるとね、もうすぐ一羽のツバメがあなたを迎えにやってくる。
そうして、あなたのような妖精がたくさん住んでいる花の国へ連れて行ってくれて、
あなたはその国の女王様になるのよ。
つまり、そのドレスの色は、花の国、あなたが幸せになる国の空の色。
だから、涙色になったなんて言って、いつまでも泣いていてはダメ。
さぁ、顔を上げて、胸を張って。ツバメさんにあなたを見つけてもらわなくっちゃ。
待っているだけでは、幸せはやってこないわ」

小さなお姫様に必死に話しかけながら、私は故郷にいる両親のことを思い出していた。

「幸せの国の空の色・・・」

泣いていた小さなお姫様は、涙に濡れてしまったドレスをじっと見つめていたが、
次第にほほに赤みが差し、そして夢見るような顔つきになった。

「私は花の国に行きたい。
女王様になることに興味はないけれど、仲間達に会いたい。
おはよう、元気だね、とか、お日様がまぶしいね、とか、風がくすぐったいね、とか、
なんでもないおしゃべりをしてニコニコできる仲間達に。
だから私は顔を上げる。しっかりここに立って、ツバメさんを探すわ」

私はほっとした。

「そうだね。うん、そうだね。
そうやって前向きな気持ちになっていたら、きっと幸せは向こうからやってくる」

ちいさなお姫様は、涙を拭いて立ち上がった。
つられて私も、幸せの国に続いている、淡く青い、春の空を振り仰いだ。

その時、目の前を黒い影がスィっと横切った。

「あ、ほら、ツバメ！」

そう言って再び視線を戻したときには、すでに小さなお姫様の姿は見あたらず、
咲きそろったチューリップが春風に揺れているだけ。

「なぁんだ、もう行ってしまったんだ・・・。
それじゃあ私も、私の幸せをつかむために前に進もうかな」

向こうでゼミの友達が、腕時計を指さしながら何か叫んでいる。
ポケットから携帯電話を取り出して時間を確かめると、思いの外、時が経っていた。

「いけない！　講義に遅れる！　急がなくっちゃ！」

私は私の未来に向かってかけだした。

（おわり）

タグ：花 マジック 妖精 チューリップ

コメント 14

自分の将来にも希望があれば、突き進めそうですね。
私は、子供の健やかな成長です。
by さいがわ (2006-04-15 15:28) 

去年の春、キャンパスの学部校舎前には私が植えたチューリップが
咲き誇っていました。赤・白・ピンク・黄色・オレンジ……。
だけど今年は、私が冬に体調を崩していた為、校舎前は枯葉色。
こんな素敵なお話を読むと、色が無いのが寂しくなってしまいます。
うーん、春色の苗を買ってきて植えようかな。
そうしたら、私も小さな女の子を見つけられるかもしれませんね。
by (2006-04-15 17:09) 

モグラのお嫁さんもとっても素敵なのに……。
でも、彼女の心の中では、ツバメの居る空を見上げて歩く事の方が幸せにつながっているのかなー、何て思ってしまいました。
とても、可愛い話でした。面白かったです。
by (2006-04-15 18:47) 

チューリップって、ホントにかわいい花ですよね。
そんなお花の根元に、かわいい妖精さんがいたら・・・、と思うと、明日からチューリップを見るのが楽しみになります。
by やっちゃん (2006-04-16 00:47) 

お話を読んでくださった皆さん、どうもありがとうございます♪

いいだやさん、
そうですね！
お子さんの健やかな成長のために突き進んでください♪＾＾

maydukiさん、
それは淋しいですね～
maydukiさんの力で、ぜひキャンパスを春色にしてください♪
そこで小さな女の子に出会えたら、きっと教えてくださいね＾＾

ぴょんまさん、
そうでした！　
もぐらさん、ごめんなさい。どうか気を悪くしないでね；
いろんな子がいて良いと思うから。。＾＾

やっちゃんさん、
花束にするとバラより映える気がします＾＾
可愛いチューリップ、
今度開店するお店の前にもぜひ植えてあげてくださいね♪

HALさん、
nice! をありがとうございました♪
by linda (2006-04-16 14:10) 

未来に希望を感じさせる物語ですね☆
描写が多めなので、
情景がイメージしやすかったです(^^ゞ。
写真も素敵ですね☆
また読みにきます♪
by kirakiratositananika (2006-04-16 16:54) 

チューリップのそばにはこんなかわいらしい人形が似合いますね。
未来に向かって、というところがいいですね♪
by asahama (2006-04-16 17:08) 

新しくなったソネブロトップ♪
アクセスが集中しているのか、ちょっと重いです；

naotoさん、ありがとうございます。
描写、頑張ってみました！＾＾
気分転換にまた立ち寄ってくださいね♪
naotoさんの、あの空に書いたポエムも、
鮮やかな紫色の花の写真も、とても素敵です☆

asahamaさん、ありがとうございます。
赤いチューリップに合わせてみたら、人形がとても引き立ちました♪
未来へ・・・希望を持って向かいたいですね！＾＾
by linda (2006-04-17 16:43) 

少し先になりますが、写真をカルトに撮り始めた被写体
ツバメがやってきます。
そうしたら、このメルヘンのように
もっともっと良い事が待ち受けているでしょう。
Power of dream.ありがとう!!!
by PopLife (2006-04-17 16:51) 

あ、軽くなってきた？　新しいシステムが馴染んだかな？＾＾

EF135Lさん、ありがとうございます。
嬉しい予告♪
期待を込めて待たせていただきますね！＾＾ｖ
by linda (2006-04-17 17:07) 

やっと軽くなりましたね。(^^)
夜になったらまた重くなるかもしれないけど。。。(^^;)

うちのベランダにも妖精がいっぱい住んでます。
全部私のお嫁さんです。
ハーレムだよｗｗ
by HAL (2006-04-18 11:43) 

HALさん、こんにちは♪
素敵なハーレムをお持ちなんですね！
可愛いお嫁さん達にまた会わせてください＾＾
by linda (2006-04-18 14:17) 

lindaさんこんにちは！
故郷の海を満喫して、昨夕我が家に戻りました♪

さわやかな風の似合う素敵な物語でした☆
長野も暖かくなりそうです。
眩しい太陽の光を浴びながら
私も一緒に駆け出しましょう♪(*^o^*)
by ringo (2006-04-21 15:10) 

ringoさん、こんにちは！
そして、おかえりなさい！！
なんだか、花曇りの空から急に光が差し込んできたみたい＾＾
また新しいお話を書こう！
そんな気持ちになりました。
林檎パワーをありがとうございました♪
by linda (2006-04-21 16:16)