おりひめ様の笹舟 [メルヘン]
朝からしとしとと、雨が降り続いています。
「あ~あ、せっかく笹飾りを作ったのになぁ~!」
今夜は七夕です。
舞ちゃんのおうちでは、おとうさんが近くのやぶで切ってきてくれた笹竹に、
折り紙で作った折り鶴や、願い事を書いた短冊をつけて、軒下に飾っていたのでした。
「ねぇ、おかあさん。雨、止むかなぁ」
「そうねぇ、夜になったら止むといいわねぇ」
「天の川、見えるかなぁ」
「そうねぇ、雲の切れ間からでも見えるといいわねぇ」
*
ところが、夜になっても雨はいっこうに止みません。
それどころか、夕飯のころには、ダーッと音を立てて、まるで滝のような勢いで降り出しました。
「あ~あ、これじゃ、お星様見えないな~」
さっきから外ばかり気にしている舞ちゃんに向かって、おとうさんが、
「だって、梅雨ですから~! 残念!」
と、おどけてみせました。
テレビに出ているお笑いの人のマネです。
舞ちゃんは、『下手だな~』と思いながらも、
「アハハ~」と笑ってあげました。
だって、おとうさんは、舞ちゃんを元気づけようとして、言ってくれたのだもの。
*
食事もすんで、舞ちゃんがいつものテレビアニメを見終わった頃、
パジャマをとりに二階へ上がっていったおかあさんが、大きな声で舞ちゃんを呼びました。
「舞~! きてごらん! お星様が見えるわよ~!」
「え~? ほんと~?」
舞ちゃんは、急いで二階へ上がっていきました。
「え? まだ雨、降ってるぞ?」
おとうさんも後ろからついてきます。
お部屋の入り口で、舞ちゃんとおとうさんは、
「わぁ~!」
「お~!」
と声を上げました。
暗い部屋の、正面のガラス窓いっぱいに、お星様がきらめいています。
さっきたたきつけるように降っていた雨が、窓ガラスにたくさんの粒となって残り、
今、街灯の光を受けて、きらきらと星のように輝いているのでした。
「ほんとだ! お星様だ! お星様が、舞のとこまで来てくれた~!」
舞ちゃんはぴょんぴょん飛び跳ねました。
その後で、ふっと考え込むようにすると、おかあさんに尋ねました。
「ねぇ、おかあさん。おりひめ様とひこぼし様は、雨が降っちゃうと会えないの?」
舞ちゃんは、幼稚園で、おりひめ星とひこ星が、一年に一度、七夕の夜にだけ、
天の川を渡って会うことができるのだと教わっていました。
「だから、七夕の夜が晴れるように、みんなでお飾りを作って祈ってあげましょうね」
幼稚園のみどり先生は、そう言って、みんなに折り紙を配ってくれたのでした。
おかあさんは、舞ちゃんの目の高さにしゃがみ込んで言いました。
「大丈夫よ、舞。
雨が降っててもね、雲の上のお空はいつも晴れてるの。
だからね、おりひめ様とひこぼし様は、今夜きっと、会えるわよ。」
「よかったなぁ、舞!」
「うん! よかった~!」
舞ちゃんは、安心して、もう雨が降っていても気にならなくなりました。
*
その夜、舞ちゃんは、夢を見ました。
窓ガラスの星空を、天の川が流れています。
その真ん中で、笹舟に乗ったおりひめ様とひこぼし様が、うれしそうに手を取り合っています。
そして部屋のベッドの中には、舞ちゃんの寝顔が……。
*
翌朝、目が覚めた舞ちゃんは、カーテンをさっと開けました。
ガラス窓のまんなかに、笹の葉っぱが一枚くっついています。
「あ、これきっと、おりひめ様の笹舟だ!
ひこぼし様は、おりひめ様を自分のお舟に乗せて、送っていってあげたんだ!」
舞ちゃんは、雨の上がったお空を見上げて、にっこりしました。
(おわり)
***
子供のころ、笹の葉っぱで笹舟をつくり、
道の脇の小さな流れに浮かべては、みんなで速さを競って遊びました。
そんな流れの行き着く先は下水口の暗がりで、その先を追うことは叶わなかったけれど、
あの笹舟達は、あれからきっと天に昇って行って、
今では天の川をさらさらと流れているのです^^
お話の中に古いギャグが入っているのは、このお話を作ったのは昨年だったということで、
どうぞご容赦ください。
それにしても、時の移りゆくのは早いですね~
まさに、梅雨時の川の流れのようです。
雨粒が光にあったってお星様、うん、水滴ってキラキラしてるんだよね。
天の川のイラスト、いいですねー!
こんな毛布で寝てみたいです。きっとステキな夢が見られそう♪(大真面目にこういう色合いのこんな柄の毛布、欲しいです(^^ゞ
by 笙野みかげ (2006-07-03 16:52)
おりひめとひこぼしに会いたいというのは、
素敵にしても究極の夢かもしれませんね!(^^)!。
季節によくあった物語は、読んでて楽しいです。
目の前の季節をよりいっそう楽しめるようになるので☆
by naoto (2006-07-03 17:18)
幸せな家庭に生まれてよかったね、舞ちゃん!
実は子供って全て、おとぎ話は嘘だと感じてはいるのですよ?
でもその事で頭をいっぱいになるのです、だって僕がそうでしたから。
そしてそれが何時か現実になることを疑いませんから、喜ばしいのです。
分かり難い表現で、恐れ入りますが、それではまた。
by PopLife (2006-07-04 08:59)
子供に「七夕って何?」といわれたので、
「1年に一度、乙姫と彦助があう日だよ」と
言ったところ、妻に「ひこぼしでしょ」と
つっこまれてしまいました。
そうそう、棚ぼたとはちょっと違うんだよと言っておきました。
うまく説明できません。
by さいがわ (2006-07-04 09:51)
素敵なお話ですね~♪
水滴のお星様だなんて、想定外(←お父さんに合わせて古いネタで(*^ー^*))
今もちょうど滝のような雨が降っていたのですが、嫌な気分を払拭してもらっちゃいました
笹舟か~。そんなことして遊んでましたね。すっかり忘れてました・・・
by はな (2006-07-04 09:53)
昔何度も読んだ物語だけど、今聞くと新鮮ですね。
そんなふうに優しい嘘のつける大人にワシもなりたいなぁ。
そういや。
7月7日は結婚(入籍)記念日だったりします。
これだと毎年忘れないでしょ?(≧∀≦)
by よっすぃー (2006-07-04 12:35)
天の川でお笑いとかを
折り紙したよ♪
http://www.blogpet.net/profile.php?id=45354dcdd6d24dc34dd86ef11e7ad2d3
by BlogPetのひかる二世 (2006-07-04 12:43)
今年は晴れるかな?
雨だったら、窓ガラスに光が入るといいなー
笹は飛んでこないと思うけど。(^^;)
私が彦星だったら、デートを覗かれたくないけど。(笑)
by HAL (2006-07-04 13:05)
二世君、さっそく仕事してるね!(^^)
by HAL (2006-07-04 13:06)
窓ガラスの星空って素敵ですよね〜
もしかしたら本物の星空よりキラキラひかって
綺麗なのかも知れません^^
雨が降っていてもみんなの部屋に
天の川ができそうです♪
by カイ (2006-07-04 14:37)
みかげさん、ありがとうございます。
あ~~~私もこんな毛布にくるまれたくなって来ちゃいました♪^^
naotoさん、ありがとうございます。
ナイス・タイミングだったでしょうか^^
雨がちな七夕でも愉しんでいただけたら嬉しいです♪
EF135Lさん、ありがとうございます。
そうですよね、子供が少しでも信じているのなら、
おとなはそれを肯定してあげたいと思います^^
いいだやさん、ありがとうございます。
そのお話、面白そうなので、もっとお聞きしたいです~♪^^
はなさん、ありがとうございます。
読んですっきりしていただけたようで嬉しいです♪^^
七夕って、梅雨の最中にあるんですもんね~;
よっすぃーさん、ありがとうございます。
じゃあ、もうすぐ結婚記念日ですね!
おめでとうございます♪
お子さん達は毎日、おりひめ様とひこぼし様に会ってるんですね^^
HALさん、ありがとうございます。
あ、だから雨雲で天の川を隠してしまうのかしら~;
二世はなかなか良い俳句を詠んでくれました♪^^v
カイさん、ありがとうございます。
みんなの部屋の天の川が繋がったら素敵ですね!^^
by linda (2006-07-04 17:33)
地上の人間には雨降ってみえないこともあるけど、その上は晴れてて会えているんだよ!って、昔の彼氏が言ってたのを思い出しました^^;
by goinkyonosora (2006-07-04 21:25)
おぺさん、ありがとうございます。
その後に、「僕たちみたいに・・・」って続いたのでしょうか♪^^
by linda (2006-07-05 09:06)
kazeさん、真幸さん、うにもちさん、
読んでくださって、そして nice! を、ありがとうございます^^
by linda (2006-07-06 08:00)
「天の川」って響きが綺麗で大好きです。
lindaさんのイラストも!♪
by miho (2006-07-06 08:41)
とても癒されました。
・・本当に、この言葉ひとことに尽きます。
今までのlinda様のお話の中で、これが一番
あたしの胸にグッときました。
by えみる (2006-07-06 09:54)
mihoさん、ありがとうございます。
「天の川」って、さらさらと星が流れていくような感じがしますよね♪
milkywayという呼び名も、滑らかで可愛らしくて好きですけど^^
えみるさん、ありがとうございます。
私が書いた以上のことを、
きっとえみるさんの心が受け取ってくださったんですね。
そのことがとても嬉しいです^^
by linda (2006-07-06 10:09)
天の川のイラスト、素敵ですね!もう七夕は明日か~~☆★
by asahama (2006-07-06 11:44)
先日、デパートに飾ってあった笹に、「かめんらいだーになりたい」という短冊を見つけて、思わず笑ってしまいました。
今ではあんまり意識しないけど、子供の頃って七夕が楽しみでした。
そんな、わくわく感を思い出させていただきました(* ̄∇ ̄*)
by (2006-07-06 12:18)
asahamaさん、ありがとうございます。
そう、明日です! 多分こちらは曇りです。
でも、願い事はしっかりしますっ♪^^v
majimajiさん、ありがとうございます。
「かめんらいだー」に、ぜひなってほしいなぁ、その子に!^^
七夕って、年に一回、自分の望みを確認できる日なんですね♪
by linda (2006-07-06 17:07)
私も幼いころ、七夕の日に雨だったら
おりひめ様とひこぼし様は会えなくて残念だな・・・と
思っていました。
だから、窓ガラスの星空、笹舟という話が
ほのぼの、嬉しく思えました。
by (2006-07-06 22:14)
hilさん、nice! をありがとうございます。
どうか良い七夕をお過ごしくださいね~♪^^
ながつきさん、ありがとうございます。
私もそうでした。
だから、ふたりが、雨でも会えるようにしてあげたくて・・・
お話を書いていて嬉しいのは、
その世界では自分の夢を叶えられることですね♪^^v
by linda (2006-07-07 07:46)
天の川のイラストも素敵です。
今日のこっちの天気は微妙だから、二人は会えたかなぁ?
by やっちゃん (2006-07-07 23:55)
こんばんは。お久しぶりですv
やっぱりlindaさんのお話を読むと、心が優しくなれる気がします。
忙しない昨今こそ、こういう行事を大切にしたいですね。
by (2006-07-08 01:28)
やっちゃんさん、ありがとうございます。
Cafe Old Dog のオープン日でもありましたね!^^
流れる星の数ほど、お客様が入りますように~~~♪
maydukiさん、ありがとうございます。
お忙しい中、遊びに来てくださってとても嬉しい^^
そう、こういう伝統のある行事は、ずっと残していきたいですよね♪
お身体に気をつけて、がんばってね!
by linda (2006-07-09 10:19)
ゑわさん、nice! をありがとうございます^^
by linda (2006-07-10 16:28)