『ミケ』 [コラボレーション]
サッと目の前を横切ったトカゲを追って、茶色と白のかたまりが花壇に飛び込もうとする。
「あ、そこはダメよ!」
私の声にびくっとして振り向いたミケは、遊び相手みぃつけた、とばかりに、
嬉しそうにこちらに向かって走ってきた。
つぶらな瞳で私を見上げて、尻尾をぷりぷりと振るこの犬に、
「ミケ」と言う名前をつけたのには訳がある。
娘の菜穂が風邪で熱を出して、学校を幾日か休んでいたときのこと。
音に反応してニャオンと鳴く、猫のぬいぐるみで遊んでいた菜穂が、
「かあさん、猫の声がする。外から」と言った。
ベランダで洗濯物を干していた私が庭の方を覗くと、一匹の三毛猫が、
おもちゃの猫の声に答えるように、とてもきれいな声で鳴いていた。
「あら、面白い。菜穂の猫に興味があるんだわ。可愛いね~」
いつもなら、飼えない動物にエサを与えるのは反って可哀相だから、と、
絶対に食べ物を与えない主義の私だったけれど、
寝込んでいる娘を元気づけに来てくれたようなその三毛猫に、ついお菓子を与えてしまった。
猫は喜んで食べてくれて、それからまもなく、菜穂の風邪が全快してからも、
庭に遊びに来ては、私の足元にまつわりついて、食べ物をねだるようになった。
「本当はね、こんなことしちゃだめなんだけど・・・
菜穂が元気になったのは、なんだかあなたのおかげのような気がするのよね」
こんな言い訳をしながら、ねだられるままに食べ物を与えてしまう私。
学校が休みの日には、菜穂も友達を連れてきて、
「ね、可愛いでしょう」と、いっしょになって遊んでいる。
「野良にしては綺麗だね。人なつこいし。どこかの飼い猫だったのかしら?」
そんな私の想いに関係なく、三毛猫は、甘えたいときにやってきて、しばらく庭でくつろぎ、
そしてどこかに去っていった。
その猫のことを、わが家では「ミケ」と呼ぶようになり、家の中には入れないけれど、
楽しみに待つようになった。
ところが、ミケが頻繁にわが家の庭に現れるようになると、美猫の雌猫である彼女を目当てに、
雄猫たちが集まりだした。
中でも一匹の大きな灰色猫は、まるでここらを仕切る親分のような貫禄であたりをうろつき、
縄張りを主張するように、あちこちにマーキングをしてまわる。
当然のように、ご近所から苦情が来た。
「うちの庭に猫がフンをするんです。餌付けなさるなら、よそでやってください。
でなければ、家猫としてちゃんと飼われるとか・・・」
スミマセン、と謝りながら、私は困り果てた。
娘を元気にしてくれたミケ、でも、うちには猫アレルギーの家族がいるから飼うことは出来ない。
けれど、今のままだと、ミケはずっとうちにやってくるだろう。そして雄の猫たちも・・・。
「菜穂。ごめんね、ミケのことなんだけど」
私は、菜穂がミケを可愛がっているのを十分承知しながら、ミケを他の場所に連れて行こう、
と、説得した。
菜穂は、とても悲しそうな顔をしたけれど、事情をわかってくれたようだった。
その夜、私はミケが現れるのを待って、彼女を抱き上げ、菜穂と一緒に車に乗せて、
少し離れた場所にある神社を目指した。
「ミケ、ここならたくさん人が来るからね、きっと誰かに飼ってもらえるよ」
そう言って、持ってきたたくさんの煮干しを地面に置き、夢中になって食べているミケを残して、
私たちは家に帰ってきた。
家に着いてから、後悔の念がこみ上げてきた。
うちで猫は飼えない。でも、ミケは、一人っ子の菜穂の良い友達だったのに・・・。
菜穂の風邪が良くなったのは、ミケのおかげだったかも知れないのに・・・。
考えている内に、涙がこぼれてきた。一番安易な方法を採った自分に腹が立った。
菜穂と一緒になってわんわん泣いた。
あの場所から、帰ってきてくれないかな、ミケ。
そうしたら、なんとか一緒にいられる方法を考えてみるのに。
そんな思いで三日が過ぎた。
私たちの前に、ミケはやはり現れなかった。
猫はテリトリーが狭いから、あの神社から帰ってくるのは無理だったのかな。
ごめんね、ごめんね、と心の中で謝り続けて明けた四日目の朝。
「いってきま~す!」と玄関を出た菜穂が、「あれ!?」と叫んだ。
わが家の庭の、ミケが初めて現れた場所に、小さな犬が座っていた。
そして、菜穂のすがたを見ると立ち上がって、ぷりぷりと尻尾を振った。
「ミケ?」
「ミケじゃないでしょ、犬だし」
けれども、その犬は、「ミケ」という言葉に反応して「ワン!」と鳴いた。
「え!?」
私たちは驚いた。
もしかしたら、と思った私は、子犬を抱き上げ、お腹を見てみた。
猫のミケのお腹にあったのと同じ、黒いハート型の模様が、その犬のお腹にもあった。
「菜穂ちゃん、やったね! 神様、ありがとうございます!」
次の日曜日、私たちはあの神社にお参りに行き、
ミケを犬にして私たちに戻してくれた神様に、たくさんの感謝を捧げたのだった。
「ね、ミケ。そうだよね」
犬のミケは、相変わらず私を見上げて、尻尾をぷりぷり振っている。
「ほら、このボール、とっといで~!」
私が投げた赤いボールを追いかけて、ミケが一目散に走っていく。
難を逃れた万寿菊からは、清冽な秋の香りが漂っていた。
(おわり)
PS: この菊は、パソコン上では無臭になるよう設定してあります^^
***
『犬』または『DOG』をテーマにしたお話の、第二弾です。
USJ に行く前にほぼ書き上げていたのですが、
あのカボチャの群れを観てしまったら、もうあちらを先に書くしかなくて^^;
でもせっかくなので、
おぺさんからいただいた”親分”というテーマもクリアするため載せることにしました♪
そして、やっちゃんさんに再びTB!
***
PS2: え~・・・。ご希望があったので後日談を付記します。
「――ところで私たちは、当然、あの猫のミケが犬に変わったのだと思っていたのに、
あのあと人伝てに聞いた話では、
神主さんのところのお嬢さんが、行方不明だった飼猫が戻って来たと大喜びしていたとか・・・。
だったら、この子は?? ということになるのだけれど、
ミケはもう立派なわが家の番犬なので、深く詮索するのは止めようと思う」
HALさん、こういうオチでいかがでしょうか^^
***
10月18日追記:
ひかる二世が、『ミケ』だと主張しています。。;
犬がミケ
↓
犬神家
娘の名は犬神菜穂ってオチしか思いつかなかった。
わぁ、ごめんー(≧≦)!
by 笙野みかげ (2006-10-13 11:30)
あはは! 結構真面目に書いたお話に、
こんなコメントをくださるみかげさんって・・・好き♪^^v
by linda (2006-10-13 13:04)
ん~~でも、やっぱ捨てられた猫のミケにも帰ってきて欲しいな~♪
犬のミケが、オスネコを追い払って、
二匹のミケが庭でのんびりと。。。
そんな続編希望~~(^^)/
by HAL (2006-10-13 14:34)
HALさん、ありがとうございます。
ご希望通りではないのですが、後日談を書いてみました♪
気に入っていただけると良いのですが^^
by linda (2006-10-13 14:57)
猫は突然どこかへ行ってしまうことがありますよね。
ミケも神社からテリトリを越えて突然やってきたんですね。
by bfield (2006-10-13 17:25)
bfieldさん、ありがとうございます。
きっとそうだと思います^^
猫の習性は見聞きした範囲で書きました。
違和感なく読んでいただけたら嬉しいです♪
by linda (2006-10-13 17:31)
え?フィクションなんですか?
凄い情景が目に浮かびましたよ。
by (。・_・。)2k (2006-10-13 20:40)
こんばんはぁ~。
子供の頃の懐かしい想いがしました。
ちなみに、わたしの高校の頃のあだ名が『ミケ』でした。
懐かしい^^
by とも (2006-10-13 22:01)
第二弾、楽しかったです。
ミケちゃん、優しい家族と一緒でよかったねぇ。
私も子どものころ、よく捨てネコを拾ってきては、親に怒られて、置いてあったところにネコを置く時、家にきてくれないかなぁと思ってました。
ネコがわんこに変わってたラストが、とてもよかったです。
いつもいつも、ご参加ありがとうございます。
by やっちゃん (2006-10-13 22:09)
創作だったんですね。
あっ、そうか・・・・童話作りがお好きなんですよね。
by masa63 (2006-10-13 22:28)
わああ~、またまた良い話☆
良かったねえ、ミケ(よしよし)。
菊を無臭設定だなんて、すごい!!(笑)
by カナタ (2006-10-13 22:47)
最後の赤いボールが投げられた瞬間の
描写と空気感に感動です。。。。。
by megumi (2006-10-14 00:33)
ちょっとゾクッとするほど面白かった今回のお話。
ワシの心にクリーンヒット(人*´∀`)
でもパソコンから香りが出るようになった暁には
ワシのブログには苦情殺到だな(笑)
by よっすぃー (2006-10-14 08:13)
19672kさん、ありがとうございます。
情景浮かびました? 嬉しいです~♪^^
ともさん、ありがとうございます。
わ~可愛い名前で呼んでもらってたんですね~♪
私は大人になってやっとlindaというあだ名をもらいました^^
やっちゃんさん、ありがとうございます。
私もよくやりました。公園に隠しておいたり^^;
こんなだったらいいのにな、という願望そのままです♪
tanamasa63さん、ありがとうございます。
勘違いされるほどの出来だった、と、
嬉しく受けとめさせていただきます!^^v
カナタさん、ありがとうございます。
よしよし、と、頭を撫でてくださいますか?^^
写真の菊を無臭にしたのには訳があるのですよ(^_-)-☆
megumiさん、ありがとうございます。
いつも深く感じ取っていただいて感謝しています♪^^
よっすぃーさん、ありがとうございます。
ホント? やったぁ♪
以前TVで、某カップラーメンの”香りの出るCM!”を観たとき、
実際に画面に近づいたのは私です^^;
by linda (2006-10-14 08:36)
ニャンコのミケがワンコになて帰ってきてほしかったですね~
でもすごく心があったまる感じでした^^
最後はみんなが幸せ、これが一番ですよね~♪
by カイ (2006-10-14 13:32)
よいおはなしですね~^^
ちなみに・・・
中学の同級生のうちに「みけ」という名の犬(たしか柴犬)がいたんで、びっくりしました。
by asahama (2006-10-14 13:57)
カイさん、ありがとうございます。
あのね、ワンコのミケは、ときどき楓の幹でつめを研いだり、
前足で器用に顔を洗ったりしてるそうですよ♪
これって・・・?^^
asahamaさん、ありがとうございます。
え!? その犬って、もしかして・・・だったりしたら楽しいですね♪^^v
そのお友達に nice! を~☆
by linda (2006-10-14 15:29)
僕んちはずっと猫を飼っていたんだけど、
やはり近所の苦情で、母親が遠くに捨てに行った猫が、
数週間後、帰ってきたことがあった。
とても痩せて。
夜中に彼女の声が聞こえて、僕(小学生)は急いで玄関を開けたんだ。
ぎいぎいひどい声になってしまって鳴きながら、それでも喉もごろごろいわせて、彼女は頭を僕にこすり付けた。
猫はずるいところもあるけれど、かわいいよね、やっぱり。
by hil (2006-10-14 21:43)
面白いストーリーですね。
うちの家族は犬党です。
私は、人間関係だけで精一杯の感じです。
by さいがわ (2006-10-14 22:33)
kazeさん、nice! をありがとうございます^^
hilさん、ありがとうございます。
辛い思い出を掘り起こしちゃったかな。。
帰ってきた彼女とhilさんのご家族は、
その後ずっと仲良く一緒に暮らしました♪
と思っていいですよね!
いいだやさん、ありがとうございます。
私は犬も猫も、たいていの動物は好きです♪
幼い頃から(空想も含めて)親しんできたからかな^^
by linda (2006-10-15 17:52)
いいお話です~。
lindaさん どこからこんなアイディアが浮かぶのですか?
知りたいなぁ~
by おっくー (2006-10-16 01:48)
こんばんはー。ブログご訪問ありがとうございました!
その犬がミケという名に反応して「ニャー」と鳴いたら確定だったんでしょうね。
by no_nickname (2006-10-16 04:01)
おっくーさん、ありがとうございます。
アイディアは・・・う~ん、連想ゲーム、かなぁ?^^;
sanisiさん、はじめまして!
こちらこそ、遊びに来てくださってありがとうございます。
ああ、そうですね~♪ もう確定!!^^v
by linda (2006-10-16 08:37)
リアルとメルヘンの狭間が心地良い~♪
楽しませていただきました~!
by うにもち (2006-10-16 11:58)
ネコミケも幸せに暮らせてよかった~(^^)
いつか、神社でご対面の日もくるかな??
by HAL (2006-10-16 12:13)
真実と実を語られる
linda様ですから
実際のお話と深く心に刻んでいます、アーメン?
お子様によろしく!?!
by PopLife (2006-10-16 15:51)
きのうひかる二世が、ここで関係するはずだった。
本当はここでlindaが猫っぽい全快された!
http://www.blogpet.net/profile.php?id=45354dcdd6d24dc34dd86ef11e7ad2d3
by BlogPetのひかる二世 (2006-10-16 16:54)
うにもちさん、ありがとうございます。
筋の通ったメルヘンが私の売りです~♪^^v <ホントかな;
HALさん、追記を気に入っていただけて良かったです♪
神社でご対面・・・どちらかが消えちゃったらどうしましょ^^;
EF135Lさん、ありがとうございます。
そういえば以前の記事に登場していた、あの半野生の
たくましい猫ちゃんは、その後も元気にしてますか?^^
by linda (2006-10-16 16:56)
わ~♪ みんな幸せになってよかった。
癒されました(*^-^)ニコ
by e-nyon (2006-10-16 19:48)
えんみほさん、ありがとうございます。
はい、みんな幸せ、八方まるくおさまりました~♪^^v
by linda (2006-10-17 08:04)
2匹のミケが顔をあわせると、時空の扉が開いてタイムスリップ。。。とか、そういう展開は???笑
by HAL (2006-10-17 12:57)
HALさん、猫ミケと犬ミケを、とても気に入ってくださったんですね~!
ありがとうございます♪
だったら、この子たちがナナとドリーになった、という展開・・は、ないです^^;
by linda (2006-10-17 17:11)
素敵♪♪とても心暖まるお話でした。
その後もうまくまとまっていて、感動です☆(*^-^*)
by ジャン子 (2006-10-17 18:59)
NAVYさん、nice! をありがとうございます^^
ジャン子さん、ありがとうございます。
いただいたご意見やリクエストをすぐにお話に反映できるから、
ブログって面白いです♪^^v
by linda (2006-10-18 10:23)
なるほど、犬なのに「ミケ」とは、そういう理由があるのですね。
後日談を読んでさらに納得しました。
猫のミケちゃんも、飼い主の所で、幸せに過ごしてるでしょうね。
ハートマークは、何かの結びつき、感じますよね。
by (2006-10-20 07:29)
ながつきさん、ありがとうございます。
犬のミケはやっぱり猫のミケ☆という可能性もあるのですが、
それでも、神社の猫も飼い主の所に戻れたし、
ハートマークは幸せの印です♪^^v
by linda (2006-10-20 07:52)
律儀にクリアしていただき、ありがとうございます^^
うまいな~♪
by goinkyonosora (2006-10-24 22:15)
おぺさん、ありがとうございます。
OKサインをいただき、ほっとしております♪^^
by linda (2006-10-25 07:46)
マナさん、nice! をありがとうございます^^
by linda (2006-10-30 07:36)